本稿では, マルチメディア通信におけるアプリケーションQoSの制御に一般均 衡理論に基づくアルゴリズムを適用し, 実装時に生じる2種のトレードオフに ついて論ずる: 空間的トレードオフは市場を構成するエージェントをネットワー ク中に分散あるいは集中して配置した場合の, 通信時間と計算時間のトレード オフである.時間的トレードオフは,QoSに対するデマンドが動的に変化 するときに, 各々の均衡解の正確さを重視し収束計算を続ける方法と, 均衡解の 計算を途中で打ち切ってデマンドの変化に追随する方法との間の,資源の割当 て効率に関するトレードオフである.
FreeWalk環境(マルチメディア会議ツール)における帯域割当と, RSVP環境に おける帯域割り当てという2つの両極端な応用を想定し, 上記のトレードオフ を分析した.その結果, (1)空間的トレードオフにおいては, クライアント数 が増大すると分散計算が有利になる, また, (2) 時間的トレードオフにおいて はデマンドの変化が激しいほど, 収束計算を打ち切りデマンドの変化へ追随す るメリットが, 時間をかけて解の精度を高めるメリットを上まわることが分かっ た. これらを総合すると, (1)クライアント数の少ないFreeWalkには集中計算が, 多いRSVPには分散計算がよいこと, (2) 実行時にQoSデマンドが激しく変化 するFreeWalkや, デマンドの変化は緩やかであるがクライアント数の多いRSVP 環境では, 共に収束計算を最後まで行なうことは実際的でなく, 適度に打ち切 る必要があることが分かった.