コンピュータ技術の発展とその普及には著しいものがあるが,このような急激な変化
は社会や個人にいかなる影響を及ぼすのであろうか.例えば,コンピュータは情報を
正確に長期に渡って保存できるが,人間はむしろ記憶を適当にゆがめ少しずつ忘却す
ることで適応していると言える.つまり,コンピュータと人間の記憶(忘却)特性は
不一致の関係にあり,このことが両者の円滑なコミュニケーションを図ろうとする際
に何らかの影響を及ぼす可能性がある.特に人間の記憶特性については心理学からの
アプローチが求められていると言えよう.そこでまず,研究の端緒として人間の記憶
=忘却特性に着目する.。
人間の記憶に関する心理学的研究は必ずしも新しいものではなく,人間がどれだけ
の項目を記憶できるのか,あるいは思い出をどのように記憶しているのかといった個
人的な側面については多くの研究が行われてきた.これに対して,ニュースイベント
のような社会的な情報を人間がどのように記憶しているのかといった研究は意外と少
ない.インターネットを中心とした情報化社会において主に流通するのはむしろ社会
的な情報ではないだろうか.とすれば,この種の情報を人間がどのように記憶・忘却
しているのか検討しておく必要があろう.
そこで今回は,社会的情報の一種としてニュースイベントを取り上げ,その記憶・
忘却特性を検討した.具体的には過去20年間に渡って生じた社会的出来事,特にその
当時マスコミを通じて頻繁に伝達された事件を中心にピックアップし,その出来事の
トピック情報(人名や地名等名詞的情報)や時期情報(生起年月など)について質問
紙による記憶調査を行った.
2つの質問紙調査から,