所長講演
6/6(木)13:00~13:30

果実(み)のなる樹木(き)を育てたい

~「情報」と「人間」を結ぶ技術基盤の構築に向けて~
NTT コミュニケーション科学基礎研究所 所長 前田 英作

概要

  21世紀に入って,私たちの生活を取り巻く情報環境は目まぐるしく変化しています.そして何より,その変化のスピードがとてつもなく速いことに特徴があります.ユビキタス,グリッド,センサネット,セマンティックWEB,WEB2.0,クラウド,ビッグデータなどこの10年間に喧伝されてきたキーワードの変遷からもそのことは明らかでしょう.また,ネットワークにアクセスする情報機器も携帯・デスクトップからスマホ・タブレットへと移り,その利用者層も子供からお年寄りまで広がっています.この変化に合わせて,提供するサービスも異なる様相を呈するとともに,環境の変化に合わせた研究開発が求められています.

  コミュニケーション科学基礎研究所は,この情報環境の劇的な変化の中において,「情報」と「人間」を結ぶ新しい技術基盤の構築をめざしています.基礎研究は,時代のニーズに即応することが求められるサービス開発と異なり,中長期的な視点に立った技術革新を求められます.しかし,変化の速度が増している中で,基礎研究の姿・形も10年,20年前のものとは当然違ってしかるべきでしょう.

  些細な発想の転換や問題の発見が新しい研究の種になります.そこに水を撒いてあげるとしばらくして芽が出てくるものがあります.さらに,肥料と陽の光を与えるといずれ論文や特許として花が咲きます.しかし花は受粉のための誘引道具であって,普通は食べることができません.やがて花は果実となり,摘み取ることができるようになります.それでも,収穫した果実がそのまま食べられるとは限りません.硬く熟していないものもあれば,酸っぱいものや,毒のあるものさえあります.料理の素材として姿を変えて使われることも少なくありません.さらに,貯えて寝かせておく場合もあります.果実から種を採って次の世代に引き継ぐこともある一方で,敢えて種のない果実を育てることもあるでしょう.

  いずれにしても,果実が何らかの形で人々の口に入り滋養となることによってはじめて,研究の成果が技術として使われ,世の中の役に立ったのだと言うことができます.この果実(み)のなる樹木(き)を育てる営みこそが,基礎研究所の役割であり,昔から連綿と行ってきた研究開発そのものに他なりません.コミュニケーション科学基礎研究所の創立以来20年の余を経て,実社会の中へ入っていった基礎研究発の技術が少しずつ生まれています.メディア探索,音声認識.残響制御,質問応答,機械翻訳,質感情報学など,そうした成功例を分析してみると, 実は,種を蒔いてから10年の時間を要していることがわかります.

  情報通信環境の激しい変化を見据えた時,この10年という時間を皆さんはどのようにとらえるでしょうか.果実(み)のなる樹木(き)をたくさん育てていくために,何を変え,何を守るべきなのか.将来に向けて基礎研究所が今すべきことは何なのかを考えなければなりません.本年のオープンハウスで紹介する一つ一つの研究展示からどのような果実が 生まれようとしているのか,是非見極めて頂きたいと思います.

講演アーカイブ

下記より本講演の動画をご覧頂けます.
果実(み)のなる樹木(き)を育てたい
~「情報」と「人間」を結ぶ技術基盤の構築に向けて~
24分03秒
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講演者紹介

NTT コミュニケーション科学基礎研究所 所長
前田 英作