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研究講演

まなざしに宿る運動の巧みさ
運動スキルを支える視線と腕の結びつき
人間情報研究部 感覚運動研究グループ
安部川 直稔

概要

人に寄り添ったICTの実現において鍵を握るのが、人の「ふるまい」や「行為」を紐解くこと、つまり「運動」の本質的理解です。人はいとも簡単に運動を実現しているように見えますが、その背後には、目を動かして目標物を捉え、視覚情報から運動を生成する複雑な脳内メカニズムが存在します。本講演では、目と腕が協調して動く仕組みを題材として、人の巧みな運動制御を考えます。特に、「なぜ運動にとって目が重要なのか?」という問いを中心に、従来の考え方から、最新の我々の知見まで含めて、紹介します。

関連文献

[1] N. Abekawa, T. Inui, and H. Gomi, “Eye-hand coordination in on-line visuomotor adjustments,” Neuroreport, vol. 25, no. 7, pp. 441–445, 2014
[2] Y. Kishita, H. Ueda, and M. Kashino, “Eye and head movements of elite baseball players in real batting,” Front. Sports Act. Living, vol. 2, p. 3, 2020.
[3] N. Abekawa, S. Ito, and H. Gomi, “Different learning and generalization for reaching movements in foveal and peripheral vision,” in Proc. Adv. Mot. Learn. Mot. Control, 2019.

講演動画
講演資料
Q&A
Q.質問/コメント A.回答
Q.質問/コメント

全体のメッセージとして、従来の中心視を主とする研究の盲点を指摘されたと理解しました。それらには、強く同意する者として、ご紹介された先行研究や独自研究の結果は、そうなる筈だと特に疑問は持ちませんでした。以下、個別に、実験試行などについて、コメントと質問です。
 コメント1:眼球や上肢の位置に着目していますが、実際の運動指令は、脳から発せられた出力信号によって筋肉を収縮させることでチカラを誘導し、それらが、バネ・質量・抵抗の機械3要素を通じて、眼球や上肢の速度に変換され、その時間積分が位置になります。対象同士がが遭遇する目標は空間的な位置になりますが、これに着目しすぎると、制御のタイミングの考察を誤る危険があります。動物は、狩をするなど結果として、空間的な位置合わせが制御目標になり、それを達成するために、早めの運動指令を、如何にして出力するかが、その生存戦略になると考えます。現在の身体の位置に着目したアプローチには、限界があるように思います。
 質問1:今後、物理的な機械3要素の影響をより少なくした、筋電などの制御出力に着目した計画はありますか?
 コメント2:かねてより、中心視と周辺視は別物と考えていて、例えば、信号待ちでその切り替え時期を速く察知するワザとして、私は周辺視で信号機を見るようにしていると、一瞬、早く一歩が出せます。周辺視は応答時間は早いが色弁別性が悪いとか、中心視とは異なる使い方があって、それを脳内で統合していると知っていたので、このような利用法を見つけた次第。ぜひ、試してみてください。画角いっぱいの大きな造形の輪郭も周辺視が担っていることは、眼球運動を伴わなっていないことは内観でも認識できます。
 質問2: SmallStep のディスプレイを使った実験ですが、PCインタフェースを介しているので、両眼による物理的な奥行き推定機能が発揮できず、手っ取り早いセットアップですが、本テーマ全体に貢献するような実験とは考えにくく、これは何か、先行研究との比較のために試行されたのですか?
 コメント3:「ボールをよく見て」指導は、桑田さんの主訴と実際の違いとともに、過去、何度か、柏野さんのご講演でお聞きしていましたが、この「ボールをよく見て」は、中心視とは限定しておらず、周辺視も使えと解釈もできます。前述の通り、早く検知したいなら周辺視を使い、細かくディテールを掴みたいのなら、時間はかかってもじっくり、中心視で見るような使い分けを、中心視と周辺視は別物と考えて使えとの、運動指導に役立てればと考えます。
 質問3:視線を入力装置として使う場合、サッケイドは実に困った存在であり、本人もその間の網膜からの刺激はミュートされていて認知していないことは知っていましたが、ご紹介あったインパクト直前100msのサッケイドは、とても興味深い動きです。何か、別のことに処理が奪われるのでしょうか? これは、例えば、柏野さんの発達障害の方に見られる感覚過敏や鈍磨の特徴に似たような、定型発達者との違いがありそうな感触はお持ちですか? ちなみに、柏野さんのご研究で、発達障害の聴覚の頭部伝達関数に定型発達者との違いがあるテーマですが、私が「発達障害と音声研究会#3(2015/11/03)」でその気づきをお伝えしたことで始まったのかな?と考えています。
長くなってしまいました。
ありがとうございました。

A.回答

丁寧なコメントとご質問,誠に有難うございます.

質問1:今後、物理的な機械3要素の影響をより少なくした、筋電などの制御出力に着目した計画はありますか?

おっしゃる通り,講演でお話した内容は目と腕の「位置関係」に着目しましたが,協調動作は「時間情報」を含む,よりダイナミックな状況が重要です.そのような観点からも,現在,目の動きパターンを含む「目・腕協調関係」と腕運動学習の関連を検証しています.そのような実験設定においては,時間情報や,時間的な協調関係をより詳細に議論する必要がある場合,筋電計測を含む実験・解析を行う可能性は十分にございます.

質問2: SmallStep のディスプレイを使った実験ですが、PCインタフェースを介しているので、両眼による物理的な奥行き推定機能が発揮できず、手っ取り早いセットアップですが、本テーマ全体に貢献するような実験とは考えにくく、これは何か、先行研究との比較のために試行されたのですか?

はい,そのような観点から,スモールステップという言葉を強調いたしました.従来研究の静的な状況(ターゲットは常に動かず固定)から,動的な状況(ターゲットが予期せぬ方向に動く)に実験課題を修正し,そこで生ずる「目と腕の協調関係」を観察することから研究・実験をスタートさせました.両眼を用いる立体視,奥行き推定との関係については,現在もアプローチできていません.3次元空間にいきる我々にとって本質的な機能ですので,ぜひ今後考えていきたいと思っております.

質問3:視線を入力装置として使う場合、サッケイドは実に困った存在であり、本人もその間の網膜からの刺激はミュートされていて認知していないことは知っていましたが、ご紹介あったインパクト直前100msのサッケイドは、とても興味深い動きです。何か、別のことに処理が奪われるのでしょうか? これは、例えば、柏野さんの発達障害の方に見られる感覚過敏や鈍磨の特徴に似たような、定型発達者との違いがありそうな感触はお持ちですか?

ヒッティング直前のサッカードの機能については,現在も検証中でして,申し訳ございませんが,確実なお答えをすることができません.1流選手ほど,ヒッティングの直前に,統一的なサッカードを行うなので,何らかの機能があるのだろうとは推測しています.視覚情報を使うことができなくても,目の位置自体を運動目標表現として利用する可能性はありますし,バッティング後のエラーを視覚的に検知しているのかもしれません.いずれにしても,バッティングというスキルに目の動きも含まれ表現されていることを示す良い例かと思いますが,その機能については引き続き,検証していきたいと思います.定型発達者との違いについてですが,このレベル(プロ野球レベル)の運動学習は,そもそも定型発達とはだいぶ異なるスキルとなりますので,定型発達と非定型発達を比較するような一般的な議論が成り立つのか否か,私達自身,まだ考えがまとまっていません.

Q.質問/コメント

運動と結びつく感覚としてなぜ視覚に注目するのでしょうか?無意識な応答といういみでは、聴覚との関連などのほうがより深くつながっていてもよいようにも思えます。

A.回答

 従来の考え方においては、視覚由来の運動は、意識的な処理と捉えられてきました。しかし,より近年の研究により、高速で無意識な視覚運動生成が可能であることが,様々な手法で示されています。本講演でお話ししている運動学習においても、実験参加者は回転変換に気付いておらず、無意識な視覚運動学習であると考えられています。
 また、視覚ー腕運動に限らず、触覚ー腕運動についても、無意識な腕運動が生成されることが分かってきています。聴覚ー腕運動における無意識な処理については、すぐには思いつきませんが、様々な感覚運動生成において、「無意識的処理」と「意識的な処理」が互いに関連しあって運動を生成しているのだと思います。

Q.質問/コメント

最適なインターフェースを設計する上で、最も重要な人間理解は何だとお考えですか?

A.回答

 これからの時代に考えるべき最適なインタフェースとは、効率のみを重視したものでなく、人にとって「自然で、使いやすく、何故か分からないけれども使ってみたい」,そう思わせるようなものであると考えています。このような観点においては、人の感覚運動生成における、「意識的処理」、「無意識的処理」、そして「それらの相互作用」を理解することが重要であると思います。
 例えば、本講演でお話した目と腕の協調関係も、「効率的に目標物の視覚情報を得る」ことのみに着眼するならば、従来の考え方通り、(周辺視と比較として)中心視運動が理想であります。一方、私達がなにげなく生成している腕運動パターンや腕運動スキルは、中心視運動のみならず、周辺視運動も密接に関わっています。ユーザがどのように目を使って腕運動を行っているのか、そのパターンや、パターンの獲得過程を考慮することが、ユーザにとって自然なインタフェースを設計することで重要になるのでないでしょうか。

講演者紹介
安部川 直稔
人間情報研究部 感覚運動研究グループ
安部川 直稔

NTT コミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部 特別研究員。2005年 東京工業大学大学院修士課程修了。同年、NTTに入社。2014年 京都大学大学院博士課程修了。2015 年 University College London客員研究員。博士(情報学)。入社以来、人の視覚運動制御に係る研究に従事し、特に近年は運動学習メカニズムに興味を持つ。日本神経回路学会奨励賞、IEEE Computational Intelligence Society Japan Chapter Young Research Awards、次世代脳冬のWS優秀賞など受賞。電子情報通信学会、日本神経科学会、日本神経回路学会、北米神経科学会、各会員。