ごあいさつ

NTTコミュニケーション科学基礎研究所(CS研)は、コミュニケーションの本質を究め、こころまで伝わるコミュニケーションの実現をめざして、メディア処理、データ・機械学習など、人間の能力に迫り凌駕するための革新技術の創出と、人間科学、多様脳科学など、人間への深い理解につながる基本原理の発見に力を入れてまいりました。今年、創立30周年を迎えることができるのも、ひとえに皆様のご理解と温かいご支援によるものと、ここに厚く御礼申し上げます。

これまでの30年にわたる先輩の方々の積み重ねのもと、CS研は次の3つの柱を育んできたと確信しております。一つめは先導性です。CS研では3名のNTTフェロー、10名の専任の上席特別研究員、14名の特別研究員を軸とした優れた研究者集団が、研究分野全体を牽引する国際的研究リーダーとして、時代の潮流となる独創的研究を推進しています。長年取り組んできた音声音響処理や言語処理研究、脳の錯覚の研究など、世界一、世界初をめざし、あるいは世界に驚きを与えるべく、日夜切磋琢磨しています。

二つめは拠点性です。CS研にしかいない優れた研究者集団が、CS研でしかできない研究に取り組んでいます。例えば、トップアスリートなどの優れた認知機能の解明を通じた、人間の「心・技・体」の関係理解の研究や、幼児の言語獲得過程の解明の研究、組合せ爆発に挑戦する離散構造解析の研究などが挙げられます。そしてこれらの研究のハブ、COE (Center of Excellence)として、オープンな体制のもと国内外の研究機関と連携して研究に取り組んでいます。

三つめは多様性です。CS研はリサーチスペシャリスト制度などを活用し、異なる分野の多様なバックグラウンドを持つ専門家が一つの研究テーマに集結したり、分野横断での研究ディスカッションなどを通じて互いに有機的に連携し、刺激しあって、それぞれの研究を推進したりしています。また、ビジネスパートナーとの連携などを通じて、基礎研究をベースとしつつ、ビジネスの種になるアイディアの実装にも果敢に挑戦しています。

30年のうちに社会も様変わりしました。一例として、現代社会ではデジタル情報が氾濫しています。しかし、目にする情報量が爆発的に増えたものの、その接し方は時間的に分断され、根気や集中力が長続きせず、その結果、文章作成力や読解力も低下しています。情報が溢れているのにうまく伝わりません。このようなデジタル社会の弊害を乗り越え、真にこころ豊かな社会を実現するためにも、私達はこれからもコミュニケーションの本質を究める基礎研究に取り組んでまいります。引き続き、皆様のご指導とご支援を心よりお願い申し上げます。

NTT コミュニケーション科学基礎研究所
所長 山田 武士