生理実験により明らかにされた特徴コラムは、物体認識に深い関係があると考えられる大脳皮質下側頭部で発見された。この結果は脳が複雑な特徴を抽出し、それらを組み合わせることで物体の認識を行っている可能性を示唆している。 また、脳内の情報処理は階層的であり、受容野の大きさは初期視覚野から高次視覚野へと階層がすすむに従い徐々に大きくなること、神経細胞も階層がすすむにつれてより複雑な特徴に反応するようになることなどが明らかにされている。
本研究では脳のように教師信号なしで認識学習を行う過程において、特徴コラムを自動的に生成することがどのような計算機構の下で可能となるのかを調べるため、ニューラルネットを用いて学習モデルを構築し、学習実験を行った。
上記の条件を満たすモデルを構築するためには2種類の課題を解決しなければならない。 一つは教師信号無しで複数の物体を類別することであり、もう一つは特徴コラムを自己組織的に生成させることである。
本研究では、入力の再構成を行うモジュール型競合学習の手法を応用することで教師無し類別学習を実現した[1]。 また、モジュール構造を階層的に積み上げ、中間層でも競合学習をさせることにより、コラム構造の自己組織化を可能とした。 このとき、受容野の大きさと、反応する特徴の複雑さを階層の深さに依存させることも同時に実現している[2,3]。
円と正方形の類別学習を2階層のモデルを用いて行った場合の実験結果を示す。 図1は入出力の例であり、ネットワークの学習により円と正方形がクラス分けされる。 図2は中間層で形成された特徴コラムで、正方形の角と円の弧がそれぞれコラムを形成している。これらのコラムは4分の1の大きさの受容野を持っている。
実験結果から、モジュール構造と競合学習を仮定することで特徴コラムの自己組織化が可能となることが十分条件として明らかになった。 今後は必要条件について検討すると同時に、本モデルの特徴である類別学習と特徴抽出を同時に行う機能の工学的な応用についても検討したい。
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