「ひとのあかり」 in Deep
今後のネットワーク社会で必要とされるコミュニケーションメディアは,
そこでのコミュニケーションデザインはどうあるべきなのか,
を考えようとしています.
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何故そんなことを考えるの?
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私達の社会生活は,ますます“繋がった”ものになってきています.
時・場所・相手を選ばず日常的にネットワークコミュニケーションができる
−“繋がって”いられる−
ネットワーク社会.
既にそうなりつつありますし,今後はよりその動きが加速されるでしょう.
このとき,今あるコミュニケーション手段
−電話(音声通話),E-mail, web chat, ICQ 等々−
のみでは,不十分なのではないか?
これらと並立するような,オルタナティブなコミュニケーションメディアが必要に
なるのではないかと考えます.
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何故既存のコミュニケーションメディアだけでは駄目なの?
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主な問題は,ふたつ.
- 情報量が,多い.
- コミュニケーションの機会は増大する一方なのに,
一度に送受される情報量がそのままでは,処理し切れなくなります.
そもそも私達は,「いつもいつも話していたいわけではない」のではないでしょうか?
- 書かれた/話された言葉に過度に依存している.
- 勿論言葉を抜きにして充分なコミュニケーションが行なえる筈もありません.
しかし,言葉だけがすべてなのでしょうか?
雰囲気,コンテクストや暗黙の合意など,言葉になりにくいが共有されるべきもの,
これらがともすれば欠落し,見過されがちなのではないでしょうか.
決して言葉を否定したり軽んじている訳ではありません.
その過激な迄の力を知っているからこそ,あえて言葉以外にも目を向けてみ
たいのです.
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じゃあ,どんなコミュニケーションメディアを考えてるの?
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ここでのカギは,みっつ.
- 伝えるべきものの,エッセンスだけを,シンプルに伝える.
- 送り手にとっても受け手にとっても,負荷にならない(邪魔にならない).
- 言葉によらない,雰囲気などが伝わるようなデザイン.
「わざわざ言葉にする程のことでもない.だけど,何かしら伝えたい.伝わってく
ると嬉しい.」
といったあたりを埋められるような,コミュニケーションメディアです.
このような動機と設計指針のもと,ひとつのコミュニケーションメディアのかたちとして
インプリメントしてみたものが,
「ひとのあかり」(Gleams of People)
です.
これは,ひとことで言ってしまえば,
- 人々のあいだの ping.
- 非常に制限されたかたちの,しかしグラフィカルな ICQ
といったようなもの
−シンプルで邪魔にならない,“繋がっている”感覚を伝えることを目指した,
コミュニケーションメディアのひとつのかたちです.
- 伝えるべきもののエッセンスとは,何?
- どうしても伝える必要があるものがひとつ.
「(ここに,)いるよ」という「存在」の情報です.
ただ,それだけではまるで在席管理システムみたいであまり嬉しくない.
だからもうひとつ,自分が今どういう「状態」でいるかの情報を伝えます.
- どのような形で,伝えるのか?
- 「存在」情報は,このツールを使っている,さらにはメッセージを送る,
という行動から,導き出せます.
「状態」情報は,そのままの形では伝えることができませんので,
何らかの表現にマップする必要があります.
ここでは,それぞれの利用者自身が,今の自分の「状態」を「色」にマップするこ
ととしました.
- 何故,「色」なの?
- 必ずしも「色」である必然性はありません.しかし,以下のような条件を考えあ
わせると,「色」がいちばんぴったり来ると考えました.
- 言葉以外のもの
- 言葉を使うのであれば/言葉にして伝えたいという意思があるのであれば,
わざわざこんなものを使う必要はありせん.
E-mail でも ICQ でもショートメッセージでも,
状況に応じて使い分ければ良いのです.
しかし,ここで狙っているのは,
「わざわざ言葉にする程のことでもない,でも伝えたい」ことを,
シンプルで直感的な形で伝えることです.
ですので,あえて言葉は排除しました.
- 表現力の広さ
- あらかじめ伝えるべき「状態」をいくつか決めておいて,それぞれにアイ
コンを割り当てる,といったような方法も可能でしょう.
しかしそれでは伝えられる「状態」が決まってしまい,窮屈です
(少なくとも,「私の状態」をシステムに規定して欲しくはありません).
- 直感的に,見て,雰囲気が伝わるように
- 「色」は,読解する必要なく,見てすぐわかります.
派手派手しいアニメーションや,音,あるいは認知負荷の高い言葉などではなく,
見るだけで良い「色」を使うことにより,
負荷にならない(邪魔にならない)コミュニケーションが可能になるのでは
ないかと考えました.
また「色」に応じて,何かしらの感覚が呼び起こされることはよくあります.
そういった人の性向を,うまく採り入れられればおもしろいと考えました.
もちろん,「色」というむしろ抽象的なものを使うことによる問題もあります.
- 視覚情報に頼り切ることの問題.
- Cross-cultural ではない.
- それどころか,親しい人の間で,おそらくはどの「色」がどういう「状態」
なのか人が学習しないと,マッピングが取れないおそれがある.などなど.
これら得失を考慮した上での,現時点でのデザイン・チョイスです.
- で,具体的なツールの動きは?
- 画面は,利用者のアドレス帳だと思って下さい.
それぞれの球が,利用者の知り合いを表します.
右下から,自分の現在の「状態」を表す「色」を選択し,
現在の「状態」を知りたい/伝えたい相手に対応する球をダブルクリックします.
自分の現在の「色」が相手に送られ,相手からは相手の現在の「色」が帰って来ます
(相手に対応する球は,その「色」に変わります).
つまり,
このコミュニケーションメディアで交換されるメッセージは,
互いの「色」(=状態)だけを伝えあいます.
メッセージの交換の様子は,同心円状のアニメーション効果で表現されます.
ここでのポイントはふたつ.
- あえてメッセージ内容を「色」(=状態)だけに限定した.
- 実用的な見地からいえば,E-mail や ICQ などより多くの内容を伝えられ
るメディアと融合するのが妥当でしょう.
しかしここでは,伝えるべきもののエッセンスを浮き彫りにすべく,
あえてその部分だけを切り出し,限定しました.
- メッセージは,行って−帰って,のペアが必ず組になっている.
- "ping" メタファのゆえんです.
普通のコミュニケーションメディアは,実は一方向通信の繰り返し,と
考えることもできます.
しかし,ここではわざわざ行き帰りを組にする,という制約をあえて入れる
ことにより,互いに「状態」を交換し合う,という効果を保証しています.
このことにより,単なる一方向通信ではなしに,
“繋がっている”ことを互いに共有しあう,ということを
目論んでいます.
なお,帰りの方のメッセージは,ツールによって自動的に送られます.
勿論,プライバシを考慮して,簡単なアクセスコントロールリストの機能は
付けてあります.
(ですので,決して答えが帰って来ない相手,というのも有り得ます.
しかしこれは,人と人とがコミュニケーションを行なう場合は避けて通れな
い宿命でしょう ;-)
- 「色」を利用者に選択させるのは何故?
- 利用者の「状態」をモニタして,自動的に獲得すること.
これはとても重要,かつ難しく,それだけで立派な研究分野です.
上手い方法があれば使いたいのはやまやまなのですが,
「状態」を獲得する手法がここでの主眼ではないため,
下手な小細工を弄するよりもいっそ使う人に委ねてしまおう,
という割り切りをしました.
- 球の大きさは何を意味するの?
- こちらから,どれだけメッセージを送ったかによって,球の大きさが変わります.
また,相手からどれだけメッセージが送られてきたかに対応して,
球がまたたく時間間隔が変化します.
- 画面の配置は何を意味するの?
- 今のところ,意味はありません.球は,好きなところに移動できます.
そうなっている理由は,このコミュニケーションメディアだけでは,
意味のある配置ができるような情報を取得することができないからです.
しかし,別の情報源から,例えば位置情報,あるいは各人のプリファレンス,など
を得ることができれば,それらを利用して配置を行なうことも可能なのではないかと
考えます.
- これで本当に,
“繋がっている”感覚が/互いの「状態」が/伝えるべきエッセンスが
伝わるの?
- 白状すると,本当のところはわかりません.
ですが,伝わった気になる,だけでも済むような場合もままあるのではないでしょうか?
勿論,それですべてことたれり,と思い込んでしまうと,
後で手痛いしっぺ返しが来ることは必定でしょうが…
それゆえ,“オルタナティブ”なのです.
ohg.
Awareness for Connectedness,
研究項目,
大黒 毅,
協調システム研究グループ,CS研,
NTT.
Last modified: Wed Jun 14 10:21:16 JST 2000