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移動オブジェクトデータベース

2002/10/07 更新

Mobile Object Database (移動オブジェクトデータベース) についての内容が増えてきたので，ドキュメントを分けました．

Mobile Object Database というのは，移動体のように動き回る機器が持っているデータを収集し，管理し，検索できるデータベースのことだと個人的に理解しています．もともとは，動き回る移動体を分散化されたデータベースに見立てて，データベース間のつながり方が変わる分散データベースでどういうデータ管理をするか，というようなことを研究しはじめたのが発端のようです．その後，端末に限らずデータを格納したオブジェクトそのものが，移動しまわるようなデータベースについての話になり，オブジェクトの位置管理や動的に変わるパラメータの管理，それらの未来にとりうる値の予測というような話に発展していっているようです．他にも，データの更新頻度が大変高いことや，データの管理が分散化されていることが多いことなどから，従来のデータベースのデータ管理手法をそのまま使ったのでは，一貫性が確保できなかったり更新にかかるコストが高すぎて実用に耐えないなどの問題が生じることが予想されており，こうしたことへの対処法についても研究されています（このあたりは文献[1]で述べられています）． 1997-8年頃から，こうしたデータベースの研究が活発に行われるようになりました．ここ数年のうちのこの分野はずいぶんと発展し，データベース系のどの国際会議でも 2-4 件程度の発表が見られるようになりました．従来の枠組みで分類するとなると，おそらくは Spatio-Temporal Database (時空間データベース) と分散データベースの間のような位置づけになると思います．

Mobile Object Databse でよく取り上げられるクエリとしては，次の二つのものがあります．

  1. ある時間と空間の範囲内にあるオブジェクトを求める．
  2. ある時刻（または時区間）において，あるオブジェクトの近傍にいる別のオブジェクトを求める．
これらのクエリをどのように記述するか，これらのクエリを扱うためにはどんなデータモデルを与え，どのような計算方法を用い，どのようなインデックスを付ければ良いか，というところに，Mobile Object Database を研究する人々の興味が集中しているように思います．問題として挙げられているだけでまだほとんど進んでいない研究としては，データ管理の分散化，データのセキュリティ保護（アクセス制御）の問題，一貫性の保証をどうするか，データマイニングへの応用，などがあります．

このあたりの研究の祖がどのあたりにあるのか私はあまりよく知らないのですが，文献を見ていると Ouri Wolfson 氏（現 The University of Illinois at Chicago教授）のが ICDE94 に発表した論文[1]あたりが始まりではないかと思います．この文献で，分散データベースでのデータ管理という話の中に，動き回るホスト（移動体）の位置に基づいてデータ管理をするというような話が出てきます．発表文献リストによれば，その後1997年に文献[2]で Mobile Object に対するクエリおよびデータモデルについて論じられ，また文献[3]では Mobile Object Database に関する研究のポイントが列挙されています．さらに文献[4]では彼らの提案するMobile Object Database (DOMINO) について述べられ，その後も研究が続けられているようです(文献[4]自体には技術的な話は少ない）．そして文献[5]には，Mobile Object Database に関する最新の動向が書かれています（まだちゃんと読んでないですが）．

研究発表としては，3年前から毎年開催されている Mobile Data Management という国際会議のほうに，関連する論文が多数発表されています．他にも，VLDB, SIGMOD, PODS，ICDE, SSTD といったところで多くの発表が見られます．IEEE の論文誌 Knowledge and Data Engineering にも関連する論文が載るようになってきました．

国内では私の知る限り．お茶ノ水大学，大阪大学，慶應義塾大学，奈良先端技術大学院大学で研究がなされているようです．DEWS2003 では4件の関連する発表がありました．

  1. Ouri Wolfson: Object Allocation in Distributed Databases and Mobile Computers, in Proc. of ICDE94, 20-29(1994).
  2. A. Prasad Sistla, Ouri Wolfson, Sam Chamberlain, Son Dao: Modeling and Querying Moving Objects. ICDE 1997: 422-432(1997).
  3. Ouri Wolfson, Bo Xu, Sam Chamberlain, Liqin Jiang: Moving Objects Databases: Issues and Solutions. SSDBM 1998: 111-122(1998).
  4. Ouri Wolfson, A. Prasad Sistla, Bo Xu, Jutai Zhou, Sam Chamberlain: DOMINO: Databases fOr MovINg Objects tracking. SIGMOD Conference 1999: 547-549
  5. Ouri Wolfson: Moving Objects Information Management: The Database Challenge. NGITS 2002: 75-89
  6. 河島 徹, 石川 佳治, 北川 博之: 移動オブジェクトに対する連続的な最近傍問合せ, 研究報告 「データベースシステム」 アブストラクト No.122 - 035.
  7. 王 軼群，野澤 博，土方嘉徳，仲谷美江，西田正吾: 移動オブジェクトを対象とした時空間データ管理手法とその評価, 研究報告 「情報学基礎」 アブストラクト No.067 - 010.
  8. 羅勇, 天笠俊之, 吉川正俊, 植村俊亮: 移動オブジェクトに対する効率的な地理情報配信手法, 第13回データ工学ワークショップ(DEWS2002)予稿集(2002).
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Yutaka Yanagisawa (c) 2002.
NTT Communication Science Laboratory.