歴代所長挨拶

“伝気”通信への期待

コロナ禍は私たちの日常を一変させました。仕事、買い物、イベント参加からあげくは飲み会までもネットワークを通しての生活となりました。先日も、これまでリアルに集まっていた会に替えて、ネットでの会を楽しみました。リアルの会だと遠隔地のために参加できなかった友人とも久しぶりに話すことができネットの良さを実感したのですが、一方でリアルの会合とは違った物足りなさが残りました。人が対面して行うコミュニケーションは単に会話だけではなく、周辺の場の雰囲気といったものを互いに共有することで成立しているように思います。単に伝えたい情報だけを伝達するのではなく、雰囲気や気分、気持ちなども一緒に伝わる”伝気”通信が、より豊かなコミュニケーションをもたらすものではないでしょうか。30周年を迎えられた皆さんには、コミュニケーションの本質に迫る”伝気”通信を目指して、一層コミュニケーション科学を極めて頂くことを大いに期待しています。

松田 晃一

松田 晃一
(第三代所長)


永遠のテーマ コミュニケーション科学

この30年という歳月を通してNTT研究所を眺めたとき、コミュニケーション科学基礎研究所は、その組織名を今日まで維持している数少ない研究所の一つであることに気づきます。これは所員の皆さんが、長年にわたって優れた研究成果を世に送り出し、信頼を得てきたことの証でもあります。当研究所が標榜してきたのは、「コミュニケーション科学」への取り組みであり、それはとりもなおさず「人間」と「情報」に関する研究に他なりません。人間と情報を研究対象とすることによって多くの魅力的な研究テーマが生まれ、研究者が長期にわたって情熱を傾けることができたのだと思います。コミュニケーション科学はまさしく永遠のテーマと言ってよいでしょう。今から30年前、当研究所名に「コミュニケーション科学」を取り入れた関係各位の慧眼には感服するばかりです。当研究所が今後益々発展し、40周年、50周年をお祝いできることを楽しみにしています。

石井 健一郎

石井 健一郎
(第五代所長)


真の科学技術立国をめざして

コミュニケーション科学基礎研究所の設立30周年おめでとうございます。高度情報化社会が叫ばれて久しいですが、新型コロナウィルスの出現で、言葉とはうらはらに日本社会の情報化が極めて遅れている実態も明らかになりました。また科学技術立国を自負する我が国も、現実を改めて認識するいい機会になりました。このような中にあって、最先端の情報科学の研究を進めるコミュニケーション科学基礎研究所の役割は、NTTのみならず日本社会さらには世界的に、これまで以上に重要なものとなっています。所員の皆様には、このことを十分に自覚して、より一層のご研鑽を期待します。情報科学を基軸としつつ、人間科学、社会科学さらには哲学までも含む広範囲な学問分野を対象に幅広く研究を進めていることは素晴らしいことです。今後の研究所ならびに研究者の皆様の益々のご発展、ご活躍を期待しています。

管村 昇

管村 昇
(第六代所長)


基礎研究の主軸として

NTTコミュニケーション科学基礎研究所(CS研)の30周年、誠におめでとうございます。私がCS研におりましたのは、1999年から2006年までの7年間ですので、ちょうど10周年を迎えた時期です。あれから20年。CS研では、数々の研究業績に加え、NTTフェローや上席特別研究員、特別研究員など、所員の皆さんの活躍を評価する新しい仕組みが導入され、基礎研究の「主軸」としての地位が益々高められてきたように思います。かつてNTT研究所では、AT&Tのベル研究所を、競争相手あるいは模範としてきました。しかし、そのベル研究所も姿を変え、CS研の皆さんが競うべき相手は無くなってしまったようにさえ思えます。が、もちろんそのようなことはありません。新しい世界に向けて、CS研にはもっと女性研究者がいても良いはずです。CS研にはもっと海外の研究者がいても良いはずです。次の新しい10年に向けて、基礎研究の主軸たるCS研の役割は益々高まっています。期待しています‼︎

片桐 滋
(第七代所長)


活躍するコミュニケーション科学技術

CS研創立30周年おめでとうございます。昨年度からのパンデミックにより、社会の様々なところで大きな変化が起きています。その一つがコミュニケーション環境だと思います。私は現在大学におりますが、もし昨年、オンライン授業に使えるシステムがなかったらどうなっただろうかと思うと、通信インフラ、映像通信、そしてオンライン会議システムなどのコミュニケーション技術がここまで来ていることのありがたみを痛感しています。また、私は今、聴覚障がいを持つ学生を研究室で指導していますが、音声認識・合成技術に助けられて日々のコミュニケーションを行えています。ちょっと前はこうはいかなかったでしょう。社会の危機を支え、多様な人々の活躍を支えるコミュニケーション科学技術の意義には大変大きいものがあると改めて実感している次第です。その意味でCS研の皆さんには、これからも自信と誇りを持って日々邁進していただけることを祈念いたします。

外村 佳伸

外村 佳伸
(第八代所長)


基礎研究の灯りを絶やさぬよう

多くの企業において90年代後半から(特に情報系の)基礎研究所が縮小・廃止される中、CS研が基礎研究所として30周年を迎えることができたことは大変価値のあることです。基礎研究は個人の好奇心に基づいて行うものですが、そのためかそんな研究は何の役に立つのかと言われることもあるでしょう。しかし、基礎研究は研究者の思惑とは違うところで花開くこともあります。何が功を奏するのかが分からないのが基礎研究です。成果が顕在化しなくても、そのユニークさが他の研究者に刺激を与えて新たな研究が生まれることもあります。基礎研究はまさにイノベーションの源泉なのです。CS研においても、これまで過去から未来に繋ぐ多くの知の財産が生み出されました。今後もさらにCS研でユニークな研究成果が生まれるよう、30年前に灯した“基礎研究の灯り”を絶やさず、未来の基礎研究者にバトンをつないでください。

上田 修功

上田 修功
(第九代所長)


『名前は変えない』

NTTにおける情報系基礎・基盤研究を担ってきたこの研究所において、過去最大の成果は何かと問われたら、皆さんはどのように答えるでしょうか。私は「コミュニケーション科学基礎研究所」という名前を守り抜いたことだと思います。「この名前を考えたのは俺だ」という言葉をこれまで3人の方からうかがったことがありますが(笑)、名前がいかに重要事かということの証左でもあります。時とともに働く人たちは入れ替わっていきます。研究内容もどんどん変化していきます。経営環境次第では不要論もでてくるでしょう。新組織として衣替えという動きもあるかもしれません。でも、名前だけは決して変えていけません。変えさせられてもいけません。これから先の270年間、是非、この名前を守り続けて欲しいと思います。そのためにはやるべきことがたくさんあるでしょう。30周年を迎えるにあたり、先輩諸氏の貢献に改めて感謝するとともに、若い皆さんの叡智と今後の活躍に期待をしています。

前田 英作

前田 英作
(第十代所長)