30周年によせて

かつてNTT コミュニケーション科学基礎研究所に在籍し、現在は各方面で活躍されている皆様から頂いたメッセージをご紹介します。
(五十音順, 敬称略)

研究所発足のころ

関西に基礎研究所ができると聞いて、家を買うと転勤になるというジンクスが頭をよぎりました。マンションを購入したばかりでしたので。横須賀研究所で立ち上げた分散人工知能チームは順調でしたが、実用化には時間がかかりそうでした。海外研修中のメンバーとも連絡をとり、悩んだ末、移動を決心しました。慌ただしく準備室が発足し担当課長を拝命しました。専任は初代所長の西川清史先生、業務系の山名昭一係長と私でした。期間は3か月間、ATRの半地下に居室を確保し、ネットワーク環境を整えました。不動産業者と社宅を探したことも懐かしい思い出です。ところでコミュニケーション科学という言葉が好きでした。コンピュータから人に視点を移すと宣言しているかのようで嬉しくなりました。それから30年、持続可能社会が喫緊の課題となっています。地球社会に見据え、新しいライフスタイルを科学する研究所に発展頂ければと願っています。

石田 亨
早稲田大学 理工学術院
創造理工学部
教授


輝いてます、CS研。

今や、世界に冠たるNTT CS研ですが、研究もどきをやろうとして少し調べると、上田さんや岩田さんの論文にまっさきに行き当たります。まさに昨日もそれが起こりまして、学生が、30年ほど前の上田さんの論文「弾性輪郭モデル云々」を読んできて話をしてくれました。現在のCS研のゆるぎない地位は、もちろん、優秀な研究者のお一人おひとりの努力の賜物ですが、歴代の所長や企画で業務をされた方、さらに研究業務を支えてくださっている派遣の方や業務委託の方の総力が結実したからこそだと思います。(小生はといえば、在職中は、みなさまのお世話になるだけで、何の貢献もせずに、このような小文を書く機会を与えていただき、たいへん恐縮しております。)これからも、世界に冠たるCS研であり続けてほしいと思います。30周年、おめでとうございます。

岡留 剛
関西学院大学 理工学部
人間システム工学科
教授


CS研と私

NTT在籍28年間で11回の人事異動と6箇所の勤務地を経験した私にとってCS研での2回の勤務ほど楽しく有益でかつ大きな影響を与えたものはなかった。1991年7月4日、CS研の初代研究企画担当部長として着任した。故西川所長の指導のもと、総務係長の山名さんと様々な制度や仕組みの整備に追われる中でマネジメントのなんたるかを学ぶ傍ら、当時発売されたばかりの赤いホンダ・ビートを駆って生駒や柳生の山中を走った爽快感は今でも忘れ得ない。思えば当時は30代だった。2回目は1999年1月の持株会社移行時の異動であった。知能情報と社会情報という2つの研究部を任せられた。これらの研究分野は正直馴染みのないものであり、当時の研究部の皆さんにはかなりご迷惑をかけたが、この時の経験が現在の「経営戦略の自然言語処理による研究」のベースになっている。来年3月末で大学の定年を迎えるが、この研究は続ける予定である。2回のCS研に在籍したご縁が、NTT退職後に京都の同志社大学にお世話になれたこと、さらには退職後も京都に関われることに繋がったことには感謝しかない。

北 寿郎
同志社大学大学院
ビジネス研究科
教授


あらためて「コミュニケーションとは?」を問う

CS研創立30周年、おめでとうございます!1998年4月から2年2か月間と短い期間でしたが、社会情報研究部において素晴らしい仲間と挑戦的な研究を企画・推進できたこと、大変光栄に思います。思えば、社会と情報との関係に注目する契機となりました。Society 5.0、 ESG (Environment, Social, and Governance)、ELSI (Ethical, Legal, and Social Issues)など、今や「社会」はコミュニケーション科学のフロンティアとして再認識されつつあると考えます。人々の意識や心理に働きかけ、社会における人々の相互理解と相互受容を促す技術的仕組みづくりが求められているかと思います。CS研において、今後も「コミュニケーションとは?その本質は?」に迫る、ある意味では哲学も含めた基礎的かつ挑戦的な研究が展開されることを期待しています。

下原 勝憲
同志社大学 理工学部
情報システムデザイン学科
教授


コロナ禍の今だからこそ

CS研創立30周年おめでとうございます。創立当時の最初からいた人間として、大変感慨深いものがあります。武蔵野にいた私は、京阪奈への異動の話があったとき、やや戸惑いを感じました。不安と期待を胸に飛び込んだところは、当時ATRに間借りしていたこぢんまりとした空間でした。グループも2つだけでしたが、今から思えば、このときが一番楽しかったかもしれません。静謐にして自由な雰囲気があり、研究するには最適な環境だったからです。研究以外では研究推進担当も経験しましたが、MITとの共同研究は懐かしい思い出の一つです。現在、世界はコロナ禍という災厄に見舞われていますが、現在ほどコミュニケーションが重要な時期はないと思います。CS研の皆様方は、これまで以上に、コミュニケーション科学という立場から世の中に貢献され、CS研がこの分野におけるCoEとなるよう、ますます発展されることを祈念しております。

白柳 潔
東邦大学 理学部
情報科学科
教授


新たな社会的価値を創造するコミュニケーション科学に向けて

NTTコミュニケーション科学基礎研究所創立30周年おめでとうございます。私がCS研の企画部長であった時期を思い起こしますと、まだ、AIブームや深層学習がはやる少し前でありました。また、NTTの情報系基礎研究所として、学術面だけではなく、CS研の成果を5事業会社を中心としたグループ企業に展開し、NTTグループ事業に資することが強く求められだした時期であったと記憶しております。当時CS研所員の皆様には、学術的に高く評価される成果の創出をお願いするとともに、皆さんの努力で生み出された成果を、様々な機会を通じて、事業会社に展開していくために、実を結びそうになった成果に関しては、5事業会社各社にご説明をしていたのを懐かしく思います。データを持つものの強さが何かと強調される昨今ですが、CS研の皆様には、今後も、大きなインパクトを与える技術・成果の創出し、データ量だけではなく技術の質により、世の中から求められる新たな社会的価値を創造し、世界を凌駕していくことを期待しております。

中岩 浩巳
名古屋大学
数理・データ科学教育研究センター
特任教授


日本の命運を左右するAIの原動力に

CS研の創設は当時の戸田本部長の悲願だったと聞きました。80年代末、情報研で悶々とする我々に基礎研究の場を設けて育てられたのは村上部長です。初代の西川所長はコミュニケーション科学を創出し、魂を入れるのは君達だと語られ、我々は学習機構研究計画の下で機械学習の研究を進めました。マルチエージェント研究の先導は京大へ移られた石田教授でした。トロント大のヒントン教授にも招聘教授としてご来所いただき刺激を受けました。優秀な仲間と充実した研究の日々を過ごせたことに感謝です。山田所長曰く、CS研の役割は人の活動を支援し人の生活を豊かにするAIの実現であると。猛威を振るう感染症が社会へ及ぼす影響の研究も含まれますね。創業より守成が難く、上田特研室長始めCS研の長期に渡るご健闘は立派です。一方、機械学習分野で日本人論文の影が薄いと感じます。リソースに恵まれたCS研が日本の命運を左右するAIの原動力となってください。

中野 良平
中部大学 工学部
情報工学科
客員教授


今あらためて「コミュニケーションの壁」、その向こうに…

今日、感染症禍や多様性の広がりがもたらす社会の変化を背景に、コミュニケーションの様々な壁を克服する必要性は益々高まっています。密を避けた新しい生活様式、社会活動のあり方を模索する中で、会議や講義を遠隔で行うような仕掛けだけでは、真のコミュニケーションなど成し得ないことを、誰しもが実感しているところです。また、それぞれの立場、価値観を越えたコミュニケーションこそが円滑な共生のための鍵であることは、普遍の事実でしょう。様々な制約を超越する、本当の意味でのコミュニケーション。その解は、科学的手段によって新たに明かされる基礎原理の数々に根差すということを、私たちは今一度噛み締めなければなりません。かかる状況において、「コミュニケーション」の「科学」を看板に掲げる基礎研究所の役割が、さらに重要になっていくことは、必然とさえ言えます。創立30周年を迎えたNTTコミュニケーション科学基礎研究所から今後も、素晴らしい研究成果が世界に向けて発信され続けることを期待しています。

中村 篤
名古屋市立大学大学院
理学研究科・総合生命理学部
教授


これからの30年のコミュニケーション科学を考えて!

30周年おめでとうございます。1996年7月15日に基礎研究所情報科学研究部からまだATRビル内と横須賀にあった旧コミュニケーション科学研究所に研究企画部長として赴任し、当日のCS研5周年記念イベントの司会が私の初仕事でした。1998年にATRビル内と横須賀をまとめて、今の京阪奈ビルに移転し、情報科学研究部と旧CS研が1999年1月に合体した現CS研の組織作りに関わっていました。今は、大学でアートサイエンスとは何かを講義し、JSTで、ムーンショット目標1の構想ディレクター(PD)やCREST知的情報処理の研究総括を担当しています。自然・社会環境の変化に対応し、温故知新も大事にして、「2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された未来社会の実現」を目指しています。CS研の皆様も30年後の未来社会を実現するためにわくわくするコミュニケーション科学研究を追究してくださいね。

萩田 紀博
大阪芸術大学
アートサイエンス学科
学科長・教授


自由と信頼と成果

私は、1987年にCS研の前身である基礎研に入所し、24年間、恵まれた環境の中で様々な研究に思う存分取り組ませていただきました。研究テーマ、時間、研究予算の自由度は破格でした。入所当時、音楽情報処理という言葉さえなく、海のものとも山のものとも知れない研究分野でしたが、当時上司の後藤滋樹さんはゴーサインを出してくださいました。2003年に、「同室感」の実現を目指す遠隔ビデオコミュニケーションシステムt-Roomのプロジェクトを立ち上げました。システム1セットを組むのに、超高級外車ほどの経費がかかりましたが、当時所長だった石井健一郎さん、先端総研所長だった東倉洋一さんはゴーサインを出してくださいました。ゴーサインは出すけど口は出さない、潤沢な時間と研究予算を任された現場はプロの研究者として成果を出す。そんな信頼関係があったのだと思います。そんな自由に惹かれて世界中から優れた研究者が集まってくるCS研のこれからがとても楽しみです。

平田 圭二
公立はこだて未来大学
システム情報科学部
複雑系知能学科
教授


継続は力

CS研創立30周年、おめでとうございます。私がCS研でお世話になったのは、1994年から2003年までの9年間です。この時期は私の長い研究者人生の中でも特に充実していました。3次元物体の画像認識、音や映像の高速探索など、私にとって思い出深い研究の多くはこの時期のものです。研究室の同僚や若手と共に研究のアイデアを議論し、マネージャーが研究を対外的にアピールするというCS研ならではの組織的連携に深く感謝しています。現在の人工知能関連の研究を見ると変化が異常なほど早く、その中でトップを走り続けているCS研は素晴らしいと思います。その一方で将来のより大きな価値創造につながるような研究を目指すためには、長期的で地味な研究の継続も必要だと思います。そのためには組織の安定的な継続はとても重要です。大学ですら短期的成果に追われている現在、CS研の存在意義は大きく思います。今後のますますのご活躍を期待しています。

村瀬 洋
名古屋大学
大学院情報学研究科
知能システム学専攻
名誉教授


変わるものと変わらないもの

創立30周年誠におめでとうございます。振り返ると、研究所ではISDNやFOMAのテレビ電話、研究段階のt-Room, MM-Space含め様々な映像通信ツールを体験し、未来を感じました。しかし何れも広く普及はせず、ところがこの1年で景色は完全に変わってしまいました。世界は変わるときにはとんでもないスピードで変わる。改めて痛感しています。今直接見えるアプリはzoomやMeetばかりですが、これを支える通信インフラと、メディア符号化の基礎技術での、NTTの、CS研の貢献を学生には説明しています。変わらずに基礎を積み重ねることの大切さと、ユーザーニーズに合わせて素早く変わることの重要性を共に伝えたいと思います。CS研が今後も、選択と集中に流されず、NTT研究所の多様性を広く維持する役割を保って、基礎研究を積み重ねることで人類社会に大きく貢献されることを祈っています。

大和 淳司
工学院大学 情報学部
システム数理学科
教授