携帯電話用音声音響符号化 EVSEVS

携帯電話用音声音響符号化 EVS

携帯電話向け音声音響符号化EVS

 移動通信システムの国際標準化団体である3GPP(3rd Generation Partnership Project)では将来の携帯電話やVoLTE(Voice over Long-Term Evolution)向け音声音響統合符号化方式として,EVSを新たに策定しました.これまでの携帯電話向け音声符号化は人間の発声メカニズムにならったCELP(Code Excited Linear Prediction)という方式が用いられ,人間の声を低ビットレートにもかかわらず高品質で伝送してきました.EVSコーデックではCELPに加えて新たに開発された低遅延の音楽向け符号化を組み合わせることにより,これまで実現できなかった,背景雑音や背景音楽を含む音声信号や音楽信号そのものを高音質のまま低遅延で伝送することが可能となっています.

 EVSコーデックはこれまで固定電話や3G携帯電話で使われていた8 kHzサンプリングレートの音だけではなく,VoLTEで使われている16 kHzサンプリングレートの音(AMラジオ相当)やFMラジオ相当の32 kHzサンプリングレートの音,さらにTV放送で使われている48 kHzサンプリングレートの音というように幅広い周波数帯域をサポートしています(図1).1フレーム20 msごとに伝送し,アルゴリズム遅延32 msという通話可能な遅延で処理を行います.また,VoLTE向けということもあり,これまでの3G携帯電話で必要だったビット列の誤り耐性(0と1が反転してしまうような状況への対策)ではなく,パケット消失のあったフレームの音声をそれよりも前に送られたフレームの情報から復元することにより違和感を小さくする方策がとられ,LTEによる伝送に適した方式となっています.さらに,対応するビットレートも5.9 kbit/sから128 kbit/sというように幅広く対応し,任意の周波数帯域・任意のビットレートにフレームごとに切り替えることができ,ネットワークの状況に柔軟に対応できます.そして,すでに普及しているVoLTEサービスで使われているAMR-WB(Adaptive Multi-Rate Wideband)との互換性も具備するため,コーデックの置き換えもスムーズに進めることが可能です.

 標準化の過程において,さまざまな条件・音源・言語での大規模な主観品質評価実験が第三者機関によって行われ,実験結果が評価レポートに示されており,従来の音声符号化方式・音響符号化方式よりも高性能であることが確認されています.また,同様の手順で日本語に特化した評価試験も行われ,ほかの言語と変わらない結果を得ることができています(図2) .有力な12の企業・研究機関が協力して技術を提案し(日本からはNTT,NTTドコモ,パナソニックが参画),従来の符号化方式よりも高性能であるEVSを策定することに貢献しました.

 実際にNTTドコモでは2016年の夏モデルからVoLTE(HD+)としてEVSを用いたサービスが始められています.また,海外でも使われ始めており,EVSは世界中で使われることが期待できます.今後,皆様が携帯電話・スマートフォンを新しいものに変えると,より自然な通話ができるようになり,雰囲気も伝わりやすくなることでしょう.

携帯電話の音声帯域

携帯電話 (VoLTE*)用 3GPP EVS**

  • 低ビットレート、低遅延(従来方式とほぼ同等)、現在のVoLTEと相互接続可能
  • 広帯域 (32 kHzサンプリングレート)、背景雑音、音楽にも高品質
携帯電話の音声帯域

EVSと既存方式の品質比較

  • EVSはVoLTE (HD+) 13.2kbps (SWB:32kHzサンプル帯域)
  • AMR-WBはVoLTE 12.65kbps(WB:16kHzサンプル帯域)
  • AMRはFOMA 12.2kbps(NB:8kHzサンプル帯域)
EVSと既存方式の品質比較

Page top ←