所長講演

6/1(木)13:20 - 13:50

AI×IoT×BigData時代における基礎研究

~科学と工学の融合による研究プロセスの新しいデザイン~
コミュニケーション科学基礎研究所 所長 前田 英作

概要

AI×IoT×BigDataが生みだす未来

  AI(人工知能)として総称される新しい情報技術、IoT(Internet of Things)という新しい情報インフラ、BigDataと呼ばれるこれまでにない量と質を有するデータ群、この三つが重なることにより、世界が大きく変わろうとしています。しかしながら、これからどのような技術とサービスが現れるのか、今私たちが予見できているのは恐らくそのごく一部に過ぎません。その可能性と社会に与える影響について、さらにアイデアと知恵を絞ることが求められています。AI×IoT×BDが生みだす世界の技術基盤は、情報を“正確に”複製することを可能にした「情報のデジタル化」と、情報を“容易”に集積・拡散することを可能にした「世界のネットワーク化」の二つにあります。この基盤の上に、機械学習をはじめとした情報を処理するアルゴリズムが載ることにより、新しい未来が生まれようとしています。

解読・探索・デザイン

  実世界にある森羅万象(人・もの・環境)のあらゆるものからデータが取得され、解読、探索、デザインという情報循環の過程を経て、実社会にフィードバックされます。人が書き記した文字、行動、発話、画像、音声、生体反応、筋活動、脳活動など、人に関わるあらゆるデータから知能のモデル化が行われます。その過程で、知能がさまざまな形で分解、再構成されて知能の部品化が進み、市場経済の中で商品として扱われる時代が早晩到来するに違いありません。

  今まで純粋科学と工学は独立な学問として研究が行われてきました。しかし、先に述べた変化の中でこの構図も大きく変わりつつあります。センシングの低廉化と知能化により、様々な分野の基礎科学データが短時間で大量に取得できるようになり、処理・解析の信頼度が増すことにより工学への活用が容易になりました。一方、信号処理・データ解析などの工学領域では、生データを読み取る力や実験計画のデザインなど実験科学のスキルが必要になってきています。前者は科学の工学化、後者は工学の科学化と呼べるかも知れません。科学から工学、工学から社会実装、さらにそこから科学へのフィードバックに至るループが、太くかつ短時間で回るようになりました。そのため、牧歌的に行われていた一部の科学研究でさえ全体の経済性を視野にいれた研究戦略の立案が必要になりつつあります。

実世界を操作するのは誰か

  ブームとしてのAIはいずれ沈静化するでしょう。しかし、技術開発そのものは緩やかにではあるが確実に進みます。その究極の将来像はどのようなものでしょうか。人工知能の父と呼ばれるマービン・ミンスキー(Marvin Minsky)がかつて知能の秘密を知りたくて脳の中をのぞこうとしたように、専門家でない普通の人が世界の情報を手軽に見ることができるようになるでしょう。音やカメラの画像を見るのでなくて、解読された様々な情報をここで見ることができ、さらにその情報を操作、制御することも可能になります。今すでに、2~3 歳の子供たちがタブレットをいじってYouTubeなどを見るようになっています。それと同じように、ごく普通の市井の人がタブレットを使って実世界を“操作”できる時代が来るかも知れません。その良し悪しはおくとして、情報の民主化とはそういうことも指し示しています。

【関連文献】
  • [1] 前田英作, “通信からコミュニケーションへ-データの時代におけるパラダイムの変容,” NTT技術ジャーナル, Vol. 28, No. 9, pp. 6-8, 2016. (【特集】コミュニケーションの未来を描く基礎研究,http://www.ntt. co.jp/journal/1609/special.html
  • [2] 前田英作, “情報科学技術を抱きしめて-世界の解読、探索とデザイン,” NTT技術ジャーナル, Vol. 27, No. 9, pp. 8-9, 2015. (【特集】未来への羅針盤としてのコミュニケーション技術,http://www.ntt.co.jp/ journal/1509/special.html
  • [3] 前田英作, “基礎研究は「時代」とともに在り,” NTT技術ジャーナル, Vol. 26, No. 9, pp. 12-15, 2014. (【特集】コミュニケーション科学の新展開,http://www.ntt.co.jp/journal/1409/special.html
  • [4] 前田英作, “音声・言語・聴覚の最先端研究が拓くコミュニケーションの未来,” NTT技術ジャーナル, Vol. 25, No. 9, pp. 12-13, 2013. (【特集】こころまで伝わるコミュニケーションを支える音声言語と聴覚研究の最前線,http://www.ntt.co.jp/journal/1309/special.html

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