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硬い物体も柔らかく、粗い物体もなめらかに

触錯覚を応用した簡便な実物体の触感変調手法

硬い物体も柔らかく、粗い物体もなめらかに
どんな研究

様々な素材を人工的に再現することで豊かな触感を提示するのは未だ困難な問題です。本研究ではベルベットハンド錯覚という触感の錯覚現象に着目・応用することで、触れている素材は同じなのにその触感を錯覚的に変えてしまう手法を考案しました。

どこが凄い

ベルベットハンド錯覚では触れているワイヤの触感がまるで布のように柔らかく錯覚されていることを定量的に示しました。更にその現象をワイヤではなく任意の物体に対して適用し、その触感がまるで別の素材になったかのように実際より柔らかく滑らかに錯覚させる手法を考案しました。

めざす未来

この触感変調を自在に制御することが可能になれば、様々な触感を人工的に提示する技術が実現できると期待されます。また、提案手法は簡単に触感を変化させることができるため、製品設計や店頭実演など様々な場面での活用が期待されます。

硬い物体も柔らかく、粗い物体もなめらかに
関連文献

[1] T. Yokosaka, S. Kuroki, S. Nishida, “Describing the sensation of the 'velvet hand illusion' in terms of common materials,” IEEE Transactions on Haptics, DOI:10. 1109/TOH, 2020. 3046376. Online ahead of print.
[2] T. Yokosaka, Y. Suzuishi, S. Kuroki, “Feel illusory texture through a hole: Rotating stimulus modulates tactile sensation for touched object’s surface,” in Proc. EuroHaptics2020 (WIP137), 2020.

展示説明ムービー
Q&A
Q.質問/コメント A.回答
Q.質問/コメント

触覚の錯覚とはなぜ起こるのでしょうか。目の錯覚(錯視)が起こる理由として、脳が情報を補完するからというのはわかります。
視覚と比べると触覚は鈍いように感じてしまいますが、手のひらから伝わる情報は意外と多いということなのでしょうか。

A.回答

触覚の錯覚が起こる理由は、錯覚によってまちまちですが、ご指摘いただいたような触覚の鈍さ(例えば、視覚と比べると触覚は瞬時に物体の空間配置を把握するのが難しい)のために錯覚が起きるケースもありそうです。
例えば、異なる指で異なる粗さのものや異なる温度のものに同時に触れると、その粗さや温度が混ざって知覚されてしまう(中間の粗さや温度を感じる)錯覚が知られています。これらの錯覚現象は、複数の指からの触覚入力をごちゃまぜにして扱うことで効率的に大雑把な空間配置を計算しようとする脳のメカニズムが背後にあるのかもしれません。日常生活でものに触れるとき、どの指も同時に同じものに触れていることがほとんどですので、通常はこのメカニズムでも問題ないのですが、各指に異なる触覚入力が与えられたときにこのメカニズムが裏目に出てしまい、錯覚が生じたのかもしれません。
触覚の錯覚と効率的処理の関係については、こちらの資料も是非ご参照ください→「知覚心理学で探る触覚の仕組み」 https://journal.ntt.co.jp/article/6454

Q.質問/コメント

フレーム回転法による触感の変化を矢印で示されたグラフがありました。これらの矢印の方向が同じような領域に向かっているように見えますが、これはなにかの触り心地に収束していくような現象なのでしょうか?また、収束していくとすれば、それは個人差があるものなのでしょうか(手の特性の違いなどで影響がありますか)?

A.回答

4素材の触感変化方向が一点に収束しているのか、それともそれぞれがパラレルに(一点ではなく)同じ方向に推移しているのか、はたまたバラバラな方向に変化しているのか、は非常に興味深い疑問です。これを明らかにできれば、この錯覚のメカニズムの理解につながることが期待されます。しかし、現状の解析方法では、これらの可能性を切り分けることはできないため、今後の実験による追加の検討が必要になります。
また、皮膚の水分量や硬さなどの手の特性につきましても、フレーム回転法による触感変化に影響する可能性があります。例えば物理レベルでは、皮膚の摩擦が大きいとフレームを回転させにくくなり、結果として錯覚が起きにくくなる、というように(触感変化方向が変わるというよりは)触感変化の度合いが変わることが予想されます。

Q.質問/コメント

そもそも、ベルベットハンド錯覚に注目した、ここに行きついた理由を教えてください。
いろいろ試していたら、ここにきた、といったような感じなのでしょうか。
こういう錯覚自体、かなりマニアックなものですよね?
どういうきっかけ、どういう背景で、このような現象に注目したのか、教えてください。

A.回答

おっしゃるとおり触覚の錯覚は一般的にあまり有名ではありませんが、実は、我々が気づかないだけで身の回りにはたくさんの不思議な触覚の錯覚が潜んでいます。ベルベットハンド錯覚もその一つで、学生の時分にテニスラケットで偶然発見して以来、ずっと不思議だなと思っていた錯覚でした。
更に触覚の研究を始めてから、ベルベットハンド錯覚は、単に触れた位置や時間を錯覚する現象と異なり、もっと複雑な質感(触り心地)の錯覚であること、また、そのメカニズムが未解明であることを知りました。このことから、この錯覚は触覚研究のテーマとしても重要な課題であると認識し、研究を始めた次第です。

Q.質問/コメント

フレーム回転法を試したいと思って,チラシを切ってフレームを作ってみたのですが,あまりうまくいきませんでした.薄いと良くないのでしょうか?

A.回答

フレーム回転法を体験いただきありがとうございます。
おっしゃるとおり、あまり薄すぎると挟んで回転させたときに変形してしまうので錯覚が起こりにくくなります。理想的には0.5mm前後の厚さの厚紙をつかうことで、錯覚が起こリやすいことがわかっています。身の回りのものですと、お菓子やシリアルなどの箱パッケージや牛乳パックなどが適しているのではないかと思います。
また、これよりも厚すぎると今度は手と物体(もしくは手と手)が十分に接触できなくなり、錯覚が起こりにくくなりますのでご注意ください。

Q.質問/コメント

ある物体の触感を記録し、再現することも可能でしょうか?
たとえば、普段は触れない仏像などの触感を記録し、
遠隔地でVRとともに再現するなど。

A.回答

触感の記録と再生は非常に興味深い応用先で、我々を含め、様々な機関で研究が進められています(例えば展示23を参照ください)。先行研究においては、物体と接触したときの振動や、物体表面の物理特性(摩擦や弾性など)に着目した計測法や提示法が提案されています。
本研究の成果であるフレーム回転法をつかっても、遠隔地の物体の触感をバーチャルに再現することができるかもしれません。フレーム回転法は、現状では、触れている物体の触り心地をより柔らかくなめらかに変調する範囲にとどまっていますので、より多様な触り心地(例えばより硬くて粗い物体の触感)を作り出せるよう発展させていきたく考えています。

Q.質問/コメント

フレームの穴の大きさによって効果は変わるのでしょうか?

A.回答

様々な穴の大きさで錯覚を評価したところ、手のひらでは直径8cmの穴で錯覚が最も大きくなり、それより小さい/大きい直径の穴では錯覚が弱くなる傾向があることがわかりました。また指先の場合では直径12-14mmほどで錯覚の強さが最大になることもわかりました。

Q.質問/コメント

ベルベットハンド錯覚やフレーム回転による触感変調は手のひら以外でも起こるのでしょうか?

A.回答

ベルベットハンド錯覚は手のひらだけでなく、指の間や足裏、臀部でも起こることがこれまでの研究で知られています。また、フレーム回転による触感変調も手のひらだけでなく、指腹と任意の物体の間で起こることが明らかになりました。 

Q.質問/コメント

ベルベットハンド錯覚はなぜ起こるのでしょうか?

A.回答

ベルベットハンド錯覚を生じる脳のメカニズムはまだ明らかになっていません。例えば、ワイヤが動くと対向する手の柔らかさとワイヤの硬さが区別できなくなる(柔らかさが混ざる)という説や、ワイヤが動くと手のひらの触覚感度が下がるのでワイヤの粗さがわからなくなる(なめらかに感じる)説などがありますが、これらの仮説はまだベルベットハンド錯覚を十分に説明できていないのが現状です。今後は、メカニズムの解明にも切り込んでいきたいと考えています。

ポスター
連絡先

横坂 拓巳 (Takumi Yokosaka) 人間情報研究部 感覚表現研究グループ
Email: cs-openhouse-ml@hco.ntt.co.jp

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