Q.質問/コメント | A.回答 |
Q.質問/コメント 私事で恐縮ですが・・・かれこれ30年テニスをしており、その間スクールにも5年以上通いましたが、満足に上達しません。安部川さんの研究の結果をテニスの練習におきかえると、フォアハンドの場合、中心視の練習(ネットに対し体を横向けにし、ボールをしっかり見て打つ)と、周辺視の練習(ネットに対し体を横向けにするが、視線はネット方向に向け、ボールは目の端で見る)を交互に行い、セットで480回反復する(笑)、という事ですかね。であれば週末から早速実行したいと思いますが。 | A.回答 的確なコメント,誠に有難うございます.実証実験をしたわけではありませんので,テニスで本当に効果があるのか確実なお答えはできませんが,実験結果の解釈を広げれば,おっしゃる通り,複数の視線方向でショットを学習したほうが,よりロバストな学習が可能になると思います.つまり,実際の試合や,練習用の球出しではない”生きた球”を打つ際に,多少視線が動いてしまっても,学習した結果を劣化なく発揮できるのではないかと思います.ただし,講演の中でもお話したように,視線方向を変えて学習することは,特に学習初期においては,学習効率を妨げることにもなりますので,注意が必要です.また,周辺視を意識しすぎて,ボールの視覚情報が得られないのも本末転倒となります.そういう観点では,サーブなど,ある程度静的な状況で,自分のペースで打てるショットにおいて,視線を意識してみることが,より効果的かもしれません. いずれにしても,球出し練習,実践練習,試合,それぞれにおいて,常に視線というものを意識してショットを打つことが,良い方向につながるのではと思います.ぜひ実践の結果,わかったことがありましたら,フィードバックいただけますと幸いです. ご質問,誠に有難うございました. |
Q.質問/コメント 興味深い研究です。 今回の研究は視覚と腕の関係性について行われておりますが、聴覚についても同じような関係性というのは成り立つ可能性があるのでしょうか?
<感想> 趣味でフルートを演奏しています。譜面を見る視野の状態※と楽器と身体の位置関係が変化すると、指の動きに差異を感じるので、視野と腕や指との関係がパフォーマンスに何らかの影響を与えていることは実感していました。 ※演奏中の譜面の位置を中心視野で確実にトレースするか、ぼんやり見ようとするか 等
練習の成果を本番で確実に出し切るために、視野との関係性をどういう風に捉えて練習しておけばよいのか?ということは、パフォーマーやアスリートの(練習の)生産性を高めるために重要な知見だと感じました。 (楽器演奏に限って言えば、多数の筋肉との協調性に加え、聴覚(演奏中は自分が出した音や他の演奏者の音の状態にも注意を向けている)も考慮する必要があるため、研究としてはなかなか難しいとは思いますが・・・。) | A.回答 非常に興味深いご指摘,誠に有難うございます.フルート含めて楽器演奏においては,腕(指)運動スキルに加えて,聴覚情報も交えて考えなければいけません.視線ー腕運動スキルー聴覚の三つ巴の関係性,脳内表現を考えることは,非常に本質的で,サイエンスとしても面白いポイントかと思います. 練習の成果を本番で確実に出し切るためには,「練習時と同じ視線状態を保つ」というのが,本研究から言える答えになります.従来研究においても目の重要性を語る話は多いのですが,常に中心視で視覚情報を得ることの重要性のみが語られてきたと思います.しかし,私の研究結果より,まさにご指摘いただいたように,「確実なトレース,あるいはぼんやり見る」など,様々視線情報が,よりダイレクトに腕運動スキルにリンクしているのだと思っています.その視線状態を保つことが,適切な運動スキルの実行には重要であり,この考え方は「腕運動,自転車の運転,楽器演奏」など多くの運動パターンに応用できるのでは考えています.
|
Q.質問/コメント ある決まった作業をするときに、卓越した人と初心者では目の動きや注意する点が異なると思います。卓越した人がどのうように視点を変えて作業をしているのか、また成功したときと失敗したときとの目の動や腕の動きの違いなどの関係を掴むことは可能でしょうか? | A.回答 ご質問,有難うございます.おっしゃる通り,熟練者と初心者では,目と腕の動かし方,注意するべき場所が異なると思います.研究展示でもお伝えしましたように,何かの作業を行うような腕運動のスキルであっても,目の位置,目の動かし方を含めて,脳内で表現されているのだろうと考えています.逆に言えば,一度獲得した作業に関わる運動スキルを発揮する際,普段とは違う目の動かした方などをした場合には,その作業の失敗率が上がるなど,出てくるかもしれません.そのような観点では,ご指摘いただいたように,「成功試行,失敗試行」と「目の挙動」の関係性に着目してデータを観察・解析するポイントは,非常に興味深い点かと思います. |
Q.質問/コメント 異なる腕運動スキルの同時獲得は効率的なのでしょうか。特にリハビリだと1つずつの動きを確認していくことの方が、確実なように感じます。 | A.回答 ご質問,有難うございます.リハビリの観点では,1つずつの動きを獲得していくことが現実的であることはおっしゃる通りかと存じます.一方,今回お示ししたように,視線方向を変えることで異なる運動スキルを獲得できるということは,脳内の(視線方向に関連した)複数の表現を学習に利用できると解釈することができます.この知見をうまく利用しますと,一つの動きの学習であっても,視線を色々な方向に変えながら脳内の複数表現を用いて学習を進めることで,より忘れにくかったり,何か外乱があってもロバストに学習結果を発揮できるようになるかもしれません.例えば,テニスのフォアハンドを練習することを考えますと,常に同じ姿勢で練習することももちろん(特に初期には)重要ですが,走りながらなど,いろいろな動きのパターンの中でショットを練習することが,最終的には重要になってくると思います. 視線を考えることで,目的やフェーズにあった運動トレーニング,リハビリテーションプログラムなどに応用できないかと考えております. |
Q.質問/コメント 実社会にどのように役にたつのか、具体的な案件・アイディアがあれば教えてください。 | A.回答 視線の状態に着目したリハビリテーション、スポーツトレーニングなどに応用できると考えています。例えば、運動学習の初期においては、効率的に学習を早めることが有用かと思います。この場合、視線方向を1点に固定することで、効率的に学習を促進することが期待できます。 一方,学習の後期においては、速さよりも忘れにくさなど、学習のロバスト性が重要になってきます。この場合、視線方向を積極的に動かして学習を行うことで、ロバストな運動学習が期待できるのではと考えています。 具体的な検証はまだこれからですが、運動学習のフェーズ・目的に応じて、目の状態を変化させるトレーニング方法に活用出来る可能性があると考えています。 |
Q.質問/コメント 運動学習を行っている際に,実験参加者はその回転変換に気付いているのでしょうか? | A.回答 今回の実験では、回転角度を少しずつ増やしてく方法を用いています。一般的にこの方法を用いた場合、実験参加者は回転変換がかかっていることに気付かず、無意識に運動が変化していくと言われています。学習後に,回転変換をなくしても、即座に運動は元に戻らず,エラーが出ているにも関わらず、学習した運動パターンを一定期間出し続けます(後効果)。このような実験結果も、無意識に運動学習が進んだ証拠と考えることができます。 |
Q.質問/コメント 今回は腕運動を対象とした実験を行っていますが、キックや歩行など,足を利用した他の運動でも,視線の重要性は同じように考えることができるのでしょうか? | A.回答 実験の行いやすさという観点から、腕運動が実験に用いられることが多いですが、歩行やキックなど足の動きも巧な運動スキルであり、運動学習として扱うべき重要な動きです。目は腕運動のみならず、足の動き、体の動きなどすべての器官と協調関係を築いていると思われます。 今回私達が示した視線の重要性が、足の運動学習においても観察されるのか、ぜひ今後検証したいと考えています。また、自転車・一輪車の運転など、複数器官を協調させるより複雑な運動スキルにおいても、ぜひ目との関係性を考えていきたいです。 |